白山駅出口のすぐ近くにある「こむぎこ」は、この地で創業からおよそ40年、地元の人々に愛用されているパスタ屋さん。まだパスタ専門店がほとんど無く、「洋食屋さん」が全盛だった時代から、「パスタ一筋」で営業しているという稀有な店であり、近くに住む人であれば知らない人は無い有名店である。
変わらず愛されている一番の理由は、「変わらない雰囲気と、変わらない美味しさ」にある。創業以来、店の場所が変わらないのはもちろん、内装も大きく変えず、カウンターの端を切ってテーブル席を設けた程度。70年代らしい雰囲気がよく残された店内で、椅子に座ると何だか落ち着いてしまう。提供される約40種類のパスタメニューも、創業時からほぼ変わらない顔ぶれ。この安定感が懐かしさにも信頼感にもつながり、常連客を掴んで離さない。
数多くのパスタメニューの中でも、一番人気は「ポパイ」という和風パスタ。名前からはアメリカンなガッツリ系パスタを想像させるが、味付けは醤油がベースで、ニンニクとオリーブオイルの香りが洋風っぽさをプラスしている、和洋折衷でサッパリとした一品だ。ホウレンソウがたっぷりと使われ、男性でも満足できる盛りっぷりになっているが、クドさは無いので女性やお年寄りでもペロリと平らげられる。初めてここを訪れるのなら、この「ポパイ」はまず外せない。
同じく人気メニューなのが、「野菜とさけ」。これも「ポパイ」と同じく和風ベースのテイストで、醤油と鮭という定石の組み合わせが柱になっているが、トマトやベーコンなど洋風素材を使うことで、スパゲッティらしさを出している。季節の野菜もたっぷりと盛り込まれ、美味しさはもちろん、見た目にも美しく、食べてもヘルシーな魅惑の一品だ。
スパゲッティはこれ以外にも「たらこ」「うにといか」「うめといか」「イカとめんたい」「エビとイカ」「あさりとしめじ」「あさりと納豆」などなど、和風な名前がずらりと並んでいる。和風味ベースで、海鮮食材をよく使うのが「こむぎこ」ならではの特徴と言えそうだ。まだ「パスタ」が「スパゲッティ」と呼ばれていた時代。地域の人にパスタの美味しさを普及させたいということで、馴染みやすい和風テイストが中心だったのだろう。
もちろんこれ以外に洋風のテイストもあり、「ミートソース」「アラビアータ」「ペペロンチーノ」「ボンゴレビアンコ」など、定番ラインもしっかり押さえている。現在、オーナーは第一線から退き、若いスタッフに店を任せているそうだが、現場のスタッフさん曰く、「メニューは前よりも増えましたが、創業の時にあったスパゲッティメニューは今も全部あるし、レシピも変わっていません」ということ。その味は現代の感覚でも十分に「美味しい!」と感動を呼ぶもので、オーナーのセンスには驚くばかりだ。
スパゲッティと同じく、変わらない味で人気を得ているのが名物「こむぎこサラダ」。こちらはレタスにスイートコーン、ツナ、トマト、それになんと「生イカ」を合わせたサラダで、自家製のオニオンフレンチドレッシングで頂くというスタイル。サラダに生イカという意外な組み合わせだが、食べてみるとこれがよく合う。固定ファンも多いという、お薦めのサイドディッシュである。
なお、「こむぎこ」では昼夜でメニューが変わり、昼はスパゲッティのセットランチのみで、OLさんや近隣の主婦層が中心。対して夜はスパゲッティのほか、その時々の旬素材を使った料理が幾つか登場し、ワインと一緒に、シェアしながら楽しむグループ客やファミリー、カップルが多くなるという。
休日の昼間は子どもを連れたお客さんも多いそうで、親子で頂ける、刺激の少ないタイプのメニューやデザート類もしっかり揃っている。その中でちょっとした名物になっているのは「バナナジュース」。これは店内で注文ごとにミキサーにかけて作っているもので、甘味を抑えた自然な味わいが魅力。お子さんからお年寄りまで、幅広い層に人気がある。
リーズナブルな価格とフレンドリーな雰囲気で、お腹一杯、美味しいパスタを食べて帰ってほしい。そんな願いで40年前に創業された「こむぎこ」は、今、若手のスタッフの手に経営が任され、若返りのさなかにある。変わらず守られているパスタのレシピは、昔の常連さんには「懐かしい味」に映り、若い新しいお客さんには「斬新な味」に映ることだろう。良いものを守り伝え、一日一日を大切に営業している、愛すべき「白山の名店」である。
こむぎこ
所在地:東京都文京区白山5-35-7
電話番号:03-3814-1873
営業時間:11:30~14:30L.O.、18:00~21:45L.O. ※土・日・祝日は11:30~15:00L.O.、18:00~21:45L.O.
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)